shishintheboardのブログ

小説、雑誌、新書、専門書、TV、ニュース記事などからの気になったことをメモしたり、そこから掘り下げて黙想したいことを書き綴ります。どんな形でもいいから、表現化したいな~。

国王の杯

あっけないほどに新国王の救出はうまくいった。わしの使命を理解して、快く旅に同行してくれた仲間たちのおかげである。今回はうまく悪の帝国と化した枢機卿の連中どもを出し抜くことができたと思う。新国王が捕えられていた宮殿は、お堀で囲まれた要塞である。前方の橋をわたる以外には、いかだに乗ってわたるか、泳ぐかしかない。わしは、エルフの娘とともに家事用水路から宮殿の地下階に侵入した。一時間無呼吸で水中にいられるというエルフの特性をもちいたのだ。あとは、深夜のため、無警戒の警備兵たちを、エルフの娘が“ホーリー・クレイドル”という神聖魔法で眠らせたり、わしがロープで縛ったりしておいて、警備室から牢の鍵を入手し、新国王を助けだしたまでだ。その後は、警備兵の衣服を着た我々三人が正門から出て行き、拳闘士の用意した馬車に乗り込めばよかった。門番たちは、エルフの娘のかけた“コアーシブ”という魔法のせいか、わしらに対して妙な威圧感を感じたらしく口答えすらしなかった。わしはこの警備兵らの忠誠心の低さから、悪の支配が長つづきはしないだろうと直感した。


その後は、森深くまで馬車で移動し、そこから裏山を登って尾根道にそって歩けば、我がふるさとのエルフ村である。深い森林のルートには特別な魔法がかけられていて、部外者の侵入を阻止しているが、わしには秘められた呪文がある。勝手知りたる我がふるさとなのだが、壮大な自然の絶景たるや息をのむほどであった。エルフの娘も、自分のふるさとに似ていると言ってはしゃいでいたし、国王からは「ここはまさしく秘境だ。美しい。よくぞ、連れて来てくださった。礼を言うぞ」というお言葉を頂戴した。


村の長ギャルドは、たいそうな上機嫌で、いままでに見たこともないほどの笑みで迎えてくれたのは言うまでもない。サンクトパウルスブルグの若き国王をお迎えした晩餐会の席に、我らを主賓席に座らせて手厚くもてなしてくれた。拳闘士なんぞは、大喜びしてごちそうを片っ端からたいらげていた。とても愉快な宴じゃった。


次の日、わしは朝の散歩から帰ると、国王に呼ばれて寝室に向かった。国王は村の長ギャルドとわしで、今後の計画案を立てようとしておられる様子だった。国王いわく、「余はまだ若輩者だが、国民に支持されて選ばれた国王だ。デラウ枢機卿に奪われた“レッサードラゴンのつえ”をなんとしても取り戻さねばならない。そのために、あるお方の助言を受けようと思う。余が幼い頃に"王の心得"を教えてくれていたマテウーノという賢者を捜し出してもらいたい。彼は隠居してカルメル山脈のふもとにある湖のほとりに移り住んだと聞いている。いまもその場所におられるはずだ。」