shishintheboardのブログ

小説、雑誌、新書、専門書、TV、ニュース記事などからの気になったことをメモしたり、そこから掘り下げて黙想したいことを書き綴ります。どんな形でもいいから、表現化したいな~。

賢者と魔法の書籍

カルメル山脈のふもとにはいくつかの湖があるが、わしらが目指す湖の名はヴィエナ湖だ。サンクトパウルスブルグ王国と隣国ダバイファールの領土をまたぐかたちでカルメル山脈は伸びているが、その辺りは領土内のもっとも西南に位置する自然豊かな場所だ。国王が捜し求めておられる方は、町の人々からも大変慕われている様子であった。老賢者は幸いにも自宅におられた。


賢者マテウーノ:「この私に、国王からの密使ですと。それはそれは、ありがたいことじゃ。私は国王がまだ幼い王子だった頃に学びの手ほどきをさせていただいたにすぎません。あのお方がこの僕のことを憶えておられたとは喜びにたえません。・・・もちろん、前国王の死とその後の国の混乱のことは存じ上げております。が、私になにができるというのでしょう。いまや隠居の身で、国の内情には通じてはおりません。」


わしらは、国王が彼の助言を求めておられることを伝えると、賢者マテウーノは長い沈黙の後、語りだした。「私はこの日のために生き延びてきたのかもしれませぬ。国王様のために、悪の枢軸から世を守るために、国の存続にかかわる秘密をお伝えしましょう。前国王様から譲り受けた魔法の書籍のことです。」それはどこにあるのかと問うと、賢者はさも当然のように応えた。「ここに、ございます。」


「この書は王となられた方でないと、通じません。即刻、国王様にこの書をお渡しなされ。そして国王御自身がこの書をお開きになれば、次なる手段もおのずと導かれましょう。」


わしらは、国王のもとに連れていくつもりだったのだが、賢者はわしらの説得にもかかわらず、「おいぼれに、これ以上すべきことはありませぬ。この地で死を迎えとうございます」と言って頑なに拒むのだった。仕方なくわしらは帰路に向かったのだが、この魔法の書籍が国王のためにどのような役に立つのか、わしには見当もつかなかった―。